町田さんは、暇を見付けては自然に触れることを心掛けています。休みの日などは近くの病院へ出掛け、難病の患者さんたちを見舞うボランティアを続けています。ボランティアの活動はアメリカ、シンガポール時代から生活の大事な一部となっています。
―― 町田さんはボランティアも随分続けてやっていらっしゃるんですね。
町田: それはもう当然でしょう。
―― 当然ですか?
町田: ええ。人間として。みなさん、大いにやって欲しいですね。老いも若きも。この地球上に生きている人間が支え合って生きていかなくてどうするんか、と思いますよね。別にそれにお金を出すとか、そういうのがボランティアではないですから。[共に生きる]というのがボランティアですからね。いろんな形でやって欲しいですよね。ついつい我々学者というのは遊離してしまうんですよ。頭でっかちになって、何かものをたくさん知って、自分たちの方が偉いような気になってしまうことがよくあるんですよ。そうじゃないと。世の中にはいろんな立場で、いろんな苦しみを背負っておられる方がおられるということを、自分自身に気付かせる機会として、ボランティアをさせて頂いているという気持。
―― 魂の進化というか変容にも大いに関係あることですか。
町田: そうですよね。例えば、重い病気に罹ればもう出世も何もないんですよ。今日、少しでも身体が軽く痛まなく生きれたらいいわけでしょう。お金を稼ぎたいとか、昇進したいとか、そういう気持があっても何も出来ないわけでしょう。ただ、今日一日呼吸が出来て、足が動いて、ご飯が食べられるだけで素晴らしい体験なわけですよ。そういうことを私たちすぐ忘れてしまうんですよね。そういう人たちに触れることによって、私がどれだけ教えて貰うことが大きいか、量り知れないものがあります。
―― 何か町田さんのおっしゃる「野生の回復」。「野生」というと、生なものというか、雄々しい感じもするんですけども、もう少し優しい気付きと言うか、そういう部分というのもあるような感じですね。
町田: そうなんですよ。野生というと、とかく一面的に捉えてしまうことがあるんですけど、実は私が言おうとしている野生の中には、「自分の中の弱さ、哀しみ、或いは暗さ、そういうものも受け止めていく。後ろから支えられている野生」なんですね。ただ、強い強い、逞しいだけでは、それはかえって脆い野生だと思いますよ。自分の弱さとか、悲しさとか、暗さとか、そういうものをしっかり抱きしめた時に、逞しく生きるとはどういうことか、ということを、身体が教えてくれますよ。それに目を背けてはいけないですね。ポジティブ・シンキングで、「ネガティブなことは考えてはいけない」と言われますけれどもね。確かになるべく気持は明るく持っていた方がいいんですけれども、誰だって自分の中に、他人に語れないような悲しいものを持っていたり、痛いものを持っていたりするんです。それを否定してはいかんと思いますね。それをしっかり抱きしめないと、他人への共感も生まれないですよ。
―― 逆にそういう辛いことを体験している、今みんなそうだと思うんですけれども、ほんとに隠したいこととか、もう目を背けたい自分のこととか、たくさんあると思うんですけども、それはそうすると逆に大切なことという?
町田: そうなんですよ。自分が真っ暗な闇と思っているものを思い切って抱きしめてみたら。我々はとかくそれから目を背けて後ろに走り逃げようとするわけですね。
―― 逃げたいですよね。
町田: 誰だって。じゃなしに、一遍勇気をもって、自分が逃げよう逃げようとしている暗い闇、それは自分の心の中にいるお化けですよ。それを思う存分抱きしめてみたら、その瞬間に光りに変わるかも知れない。
―― それはかなり強いことでもあると思うんですけど。
町田: また禅の話に戻りますと、「百尺竿頭(ひゃくしゃくかんとう)一歩を進む」という表現があるんです。
―― 難しい言葉ですね。
町田: 「百尺」といのは、例えば、まあ百メートルとしましょう。百メートルの竿の頭に上るのが禅の修行なんですよ。苦労して、坐禅をして、いろんなことを辛抱して竿の天辺まで百メートル上りました。さあ、此処からどうするか。悟りを開きました。さあ、ここからどうするか、と。そこで禅は、「百尺竿頭一歩を進む」と言うんです。
―― 百メートルの上から一歩進むと落ちちゃう。
町田: 落ちて死ぬわけですよね。それと同じ勇気がいるんです。私たちは自分の心の闇を抱きしめるには。そうすれば今の自分は失敗の連続であった、と。何をやっても上手くいかない、と。私は何をやっても人より遅れてしまう。そういう劣等感を持っている人が大いなる自信を回復する可能性があるんですよ。今、日本国民みんなが全部それをやらなければいかん。
―― ほんとに闇のように思っていらっしゃる方はほんとにいっぱいいらっっしゃる、私も含めて。この先どう行こうかしら、という。
町田: それは大きな気付きのチャンスが目の前に来ているということでしょう。
―― 町田さんは日本から始まって、家出から始まって、いろんな旅をして来られて、アメリカにも行きましたし、東南アジアにも行きました。鈴木大拙さんの本を読んで大きい夢を持たれていた。これからどういうことをしていきたい、と思っていらっしゃるでしょうか。
町田: 少しでも世界の人たちに具体的な形で何かお役に立つことをしたい。というのは、旅をするたびに、自分の眼に飛び込んでくるのは非常な貧困ですよ。日本というのはこれだけ不況でも、みんながそれなりの服を着て、美味しいものを食べて生活が出来ていますけども、世界の半数以上の人は、今日の食事にも困っておりますよね。そういう人たちに何らかの形で具体的に援助の手を差し伸べられるような、そういう仕事をいつかはやってみたいと思っているけれども。
―― はい。今日は私、なんか自分の魂の旅をしてみたくなりました。
町田: 有り難うございます。
―― 先生もこれからずーっと旅を続けて下さい。
町田: はい。宜しくお願いします。
―― 次の家出はいつですか?
町田: 次の家出の予告はございません(笑い)。
―― どうも有り難うございました。
町田: 失礼致します。
これは、平成十四年十二月一日に、NHK教育テレビの「こころの時代」で放映されたものである。